探偵が事件に介入する事を拒否る推理小説があります。
先日、中学に入学する長男の勉強部屋を確保するために本の大量整理をしたわけですが。
本好きとしては本の仕分けを始めると時間が経つのを忘れてしまったりします。
この本懐かしいなーなんて思いつつ整理していると完結まで揃えていない本の内容を思い出して続きが気になるものもあったりしますね~。
そしてネットで検索してみたら完結しているじゃないか、中古が激安価格ではないかともなれば何のために片付けたかなどはもはや忘却の彼方に追いやって。
欲しくなったりするのも、本好きのサガというもの誰に責められましょうってなものですよ。
事ほど左様な経過をたどり久方ぶりに推理小説を数冊まとめ買いした私でした。
『平井骸惚此中ニ有リ』田代裕彦著 富士見ミステリー文庫 五巻完結なのですが
大正時代を舞台にした推理小説でありながら主人公の成長物語でもあるのでNHKの朝の連ドラのような印象も受ける不思議な作品です。
舞台が大正なのは江戸川乱歩のデビューの年を時代設定にしたかったからとあとがきで記されていましたが。で、大正12年から物語が始まるわけですが、関東大震災が同年なんですね、あとがきで旅行に行っていて登場人物達は被災しませんでしたとかいって逃げようかとも考えたとも書かれていましたが丁寧に事実をふまえたうえで地震についても誠実に書かれていた印象でした。とにかくこの作者さん本文からあとがきにいたるまで誠実さがにじみ出ていて文章に好感が持てるんですよ。
名探偵がよろこんで事件に首を突っ込んでは解決していく推理小説とは異なって、こちらでの名探偵にあたる平井骸惚先生(探偵小説を書いている作家先生)は「探偵作家は探偵にあらず」と言って、徹底的に事件に関与するのを拒否ります。それを弟子の主人公と娘さんが正義感などから事件に首を突っ込むものだから最終的に後始末させられるというかたちになっていたり。そして主人公が成長しいってこのかたちが変わっていく過程もまた面白く思ったりたり。
舞台が現代ではないこともあって、登場人物のセリフの他にも必要な部分には解説が都度入る構成になっていますが。これ、同じ大正時代を舞台とした物語の『鬼滅の刃』にも近い印象を受けるので、『鬼滅の刃』が大流行りしただけにこちらも文体に抵抗少なく読みやすいのではと思ったりしました。
推理小説の入口としてこの作品はとてもおすすめできますね。
文体の硬さも表紙が和らげてくれていますし、これだけ丁寧に書かれていれば時代背景に思いをはせる楽しさもあります。いろいろな楽しさを見つけられて楽しめるのではないかと思いましてね。